ホテルマンとして働く私たちの頭の中を、ちょっとだけお見せしちゃいます。
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京子はイライラしていた。
その原因はいくつかあった。新しく移った職場の慣れない雰囲気、人を小馬鹿にするような上司、やたらしつこくなってきた両親からの結婚の催促、今付き合っている恋人との膠着状態。
そして今朝から続く雨で、お気に入りのパンプスがびしょ濡れであること。
仕事で来ていた博多のホテルの部屋で、彼女は眉間に皺をよせていた。
ああ、イライラする。
彼女は不意に立ち上がってうろうろと部屋を歩き回る。感情が高ぶっている時の彼女の癖だった。
3往復ほどしたとき、立ち止まって深く息を吐いた。
はあ。
気持ちを切り替えようと、彼女は頭を振った。
のどが渇いた。
飲み物を買うため鍵を探した。
ない。
彼女の中で焦りと怒りの混じった感情がふつふつと湧いてくる。テーブルの上を見、ベッドの上を見、バッグの中を探し、浴室も見渡した。しかし、どこにもない。自分の行動を振り返ってみる。フロントで鍵をもらってから一直線に部屋まで来た。それからこの部屋は出ていないため、少なくとも室内にあるはずである。いや、もしかするとドアのところに差しっぱなしだったかもしれないと思い、そこも見てみたが何もなかった。フロントに届いていないか電話してみるも、なし。落ち着いた方向へ向かっていた彼女のイライラがまた復活してきた。
なんで私だけこうなんだ。
彼女の怒りはじわじわと高まってくる。なかばやけくそでベッドシーツをはぎ、枕をはらいのけてみたが、ベッドにはやはりない。テーブルの上の書類をまとめて掴みあげてもう一度見てみたが影も形もない。しばし怒りに任せてガタガタと音を立てながら、むしろ暴れているような格好で探しまわった。ない、ない、ない。どこにも見当たらない。ひとしきり暴れた後、急激に疲れが襲ってきて、彼女は椅子にへたり込んだ。
・・・・・。
背もたれに体を預け、天井をぼんやりと見上げる。なんだか疲れてしまった。このまま眠ってしまおうかと、目を閉じた。
その時、携帯の着信音が鳴り始めた。ソファに置いたバッグから聞こえる。ちらりとそちらを見て、無視しようとまた目を閉じたが、一向に鳴り止みそうにない着信音にまた目を開けた。すっかり重くなった体をなんとか動かしてバッグを取った。サイドの小ポケットから取り出そうとしたとき、ぽろりと何かが床に落ちた。
部屋の鍵だった。
一時、彼女はその鍵をじっと見つめたままだった。やがて、口の端でかすかに笑った。あれだけバッグの中も探したのに、必死になってベッドはがしたり書類散らかしたりしていた自分がバカみたい。
そこで彼女はふと気付いた。探しているものは本当はいつも目の前にあるんじゃないだろうかと。愛だとかお金だとか求めるものはいくらでもあるけれど、暴れてそれを見えなくさせていたのは自分自身だったのかもしれない。
そう考えた時に、彼女の心は少し軽くなった。なんだ、すごく単純なことじゃない。もっと自分の近くをゆっくりと見回してみればいいんだ。
鳴っている携帯のディスプレイには恋人の名前が表示されている。ささいなすれ違いで最近はろくに会っていない。たまに連絡があっても仕事だからと避けてきた。でも、今彼からの電話がなければ鍵も見つからずイライラはさらに増していただろう。
たまには電話、出てあげるか。
彼から電話がある度いつも感じていた暗い感情は彼女になかった。ためらうこともなく彼女は受信ボタンを押した。
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その原因はいくつかあった。新しく移った職場の慣れない雰囲気、人を小馬鹿にするような上司、やたらしつこくなってきた両親からの結婚の催促、今付き合っている恋人との膠着状態。
そして今朝から続く雨で、お気に入りのパンプスがびしょ濡れであること。
仕事で来ていた博多のホテルの部屋で、彼女は眉間に皺をよせていた。
ああ、イライラする。
彼女は不意に立ち上がってうろうろと部屋を歩き回る。感情が高ぶっている時の彼女の癖だった。
3往復ほどしたとき、立ち止まって深く息を吐いた。
はあ。
気持ちを切り替えようと、彼女は頭を振った。
のどが渇いた。
飲み物を買うため鍵を探した。
ない。
彼女の中で焦りと怒りの混じった感情がふつふつと湧いてくる。テーブルの上を見、ベッドの上を見、バッグの中を探し、浴室も見渡した。しかし、どこにもない。自分の行動を振り返ってみる。フロントで鍵をもらってから一直線に部屋まで来た。それからこの部屋は出ていないため、少なくとも室内にあるはずである。いや、もしかするとドアのところに差しっぱなしだったかもしれないと思い、そこも見てみたが何もなかった。フロントに届いていないか電話してみるも、なし。落ち着いた方向へ向かっていた彼女のイライラがまた復活してきた。
なんで私だけこうなんだ。
彼女の怒りはじわじわと高まってくる。なかばやけくそでベッドシーツをはぎ、枕をはらいのけてみたが、ベッドにはやはりない。テーブルの上の書類をまとめて掴みあげてもう一度見てみたが影も形もない。しばし怒りに任せてガタガタと音を立てながら、むしろ暴れているような格好で探しまわった。ない、ない、ない。どこにも見当たらない。ひとしきり暴れた後、急激に疲れが襲ってきて、彼女は椅子にへたり込んだ。
・・・・・。
背もたれに体を預け、天井をぼんやりと見上げる。なんだか疲れてしまった。このまま眠ってしまおうかと、目を閉じた。
その時、携帯の着信音が鳴り始めた。ソファに置いたバッグから聞こえる。ちらりとそちらを見て、無視しようとまた目を閉じたが、一向に鳴り止みそうにない着信音にまた目を開けた。すっかり重くなった体をなんとか動かしてバッグを取った。サイドの小ポケットから取り出そうとしたとき、ぽろりと何かが床に落ちた。
部屋の鍵だった。
一時、彼女はその鍵をじっと見つめたままだった。やがて、口の端でかすかに笑った。あれだけバッグの中も探したのに、必死になってベッドはがしたり書類散らかしたりしていた自分がバカみたい。
そこで彼女はふと気付いた。探しているものは本当はいつも目の前にあるんじゃないだろうかと。愛だとかお金だとか求めるものはいくらでもあるけれど、暴れてそれを見えなくさせていたのは自分自身だったのかもしれない。
そう考えた時に、彼女の心は少し軽くなった。なんだ、すごく単純なことじゃない。もっと自分の近くをゆっくりと見回してみればいいんだ。
鳴っている携帯のディスプレイには恋人の名前が表示されている。ささいなすれ違いで最近はろくに会っていない。たまに連絡があっても仕事だからと避けてきた。でも、今彼からの電話がなければ鍵も見つからずイライラはさらに増していただろう。
たまには電話、出てあげるか。
彼から電話がある度いつも感じていた暗い感情は彼女になかった。ためらうこともなく彼女は受信ボタンを押した。
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