ホテルマンとして働く私たちの頭の中を、ちょっとだけお見せしちゃいます。
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ドアを押し開けるとリモコンの波が起きてザラザラと不気味な音がする。
「・・・・・」
絶句。
廊下も全てがリモコンで埋め尽くされ、角にあるエレベーターのドアも半分は埋もれて見えなくなっている。手すり越しに見える外も地面が覆われ、白・黒・灰色の奇妙なグラデーションが出来上がっている。
タダゴトデハナイ。
いびつな青竹踏みの上を歩いているような感覚で、ふらふらと廊下を歩いてエレベーターに向かう。下降ボタンを押してドアが開けば、中のリモコンと廊下のリモコンが混ざり合い、さらに層を厚くする。
1階の駐車場に出ると、車もタイヤまで埋まっていた。その向こうの駐輪場も同じく、リモコンの大地から自転車が生えているような有り様だ。
そんな中を、管理人のおばさんがホウキで掃除している。床を掃こうにもデコボコのリモコンの上を掃いているので、あまりはかどっていないようだ。ぼおっとその光景を見ていると、おばさんがこちらに気づいて顔を向ける。
「おはようございます」
「ああ・・・おはよう、ございます・・・」
こんな異常な状況下で日常的なあいさつ。おばさんは黙々と掃除を再開する。もしかして、おかしくなったのは周りではなく自分なのだろうか?そんな疑問が頭によぎる。そういえば、廊下のリモコン群を見たあたりから、なんだか淡々とここまで降りてきた。もともとリモコンは空から降ってくるものだったのかもしれない。「雨で床が濡れて転びやすいのでご注意ください」と同じように「リモコンで歩きにくいのでご注意ください」という注意書きも見た事があるような気がしてきた。そういえばさっきの天気予報の中でも「今日の降リモコン確率は80%」と言ってなかっただろうか。うんうん、昨日も飲み仲間と「最近リモコン降るの多くて困るよな~」と話した記憶が
あるわけない。
頭を振り、いつのまにか現状に飲み込まれそうになっていた自分を振り払う。
とにかく今身近にいるのは管理人のおばさんだ。この人に聞いてみよう。
「あの・・・」
おばさんがホウキを掃く手を止めて振り返る。
「はい?」
「えっと・・・・」なんと聞いたものか、頭の中で整理しようとするが、どうにも考えがまとまらない。なにか言葉を発しようとしてはやめ、声を出そうとしては口を閉じるのを何回か繰り返す。おばさんが怪訝な顔でこちらを見ている。
やっとのことで出た言葉は「これは・・・なんですか?」だった。
(つづく)
「・・・・・」
絶句。
廊下も全てがリモコンで埋め尽くされ、角にあるエレベーターのドアも半分は埋もれて見えなくなっている。手すり越しに見える外も地面が覆われ、白・黒・灰色の奇妙なグラデーションが出来上がっている。
タダゴトデハナイ。
いびつな青竹踏みの上を歩いているような感覚で、ふらふらと廊下を歩いてエレベーターに向かう。下降ボタンを押してドアが開けば、中のリモコンと廊下のリモコンが混ざり合い、さらに層を厚くする。
1階の駐車場に出ると、車もタイヤまで埋まっていた。その向こうの駐輪場も同じく、リモコンの大地から自転車が生えているような有り様だ。
そんな中を、管理人のおばさんがホウキで掃除している。床を掃こうにもデコボコのリモコンの上を掃いているので、あまりはかどっていないようだ。ぼおっとその光景を見ていると、おばさんがこちらに気づいて顔を向ける。
「おはようございます」
「ああ・・・おはよう、ございます・・・」
こんな異常な状況下で日常的なあいさつ。おばさんは黙々と掃除を再開する。もしかして、おかしくなったのは周りではなく自分なのだろうか?そんな疑問が頭によぎる。そういえば、廊下のリモコン群を見たあたりから、なんだか淡々とここまで降りてきた。もともとリモコンは空から降ってくるものだったのかもしれない。「雨で床が濡れて転びやすいのでご注意ください」と同じように「リモコンで歩きにくいのでご注意ください」という注意書きも見た事があるような気がしてきた。そういえばさっきの天気予報の中でも「今日の降リモコン確率は80%」と言ってなかっただろうか。うんうん、昨日も飲み仲間と「最近リモコン降るの多くて困るよな~」と話した記憶が
あるわけない。
頭を振り、いつのまにか現状に飲み込まれそうになっていた自分を振り払う。
とにかく今身近にいるのは管理人のおばさんだ。この人に聞いてみよう。
「あの・・・」
おばさんがホウキを掃く手を止めて振り返る。
「はい?」
「えっと・・・・」なんと聞いたものか、頭の中で整理しようとするが、どうにも考えがまとまらない。なにか言葉を発しようとしてはやめ、声を出そうとしては口を閉じるのを何回か繰り返す。おばさんが怪訝な顔でこちらを見ている。
やっとのことで出た言葉は「これは・・・なんですか?」だった。
(つづく)
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「続いて全国のお天気です。田中さ~ん」画面から女子アナのかん高い声が聞こえる。それに合わせて画面が切り替わり、日本地図をバックに立った天気予報士が一礼する。
「えー、全国の天気をお伝えします。今日の天気は晴れる所もあれば曇る所もあれば雨が降る所もあるでしょう。雷が落ちたり洪水が発生したりするかもしれません。それは我々には予測できません。要するに今日の天気は分かりません。天気なんてどうでもいいのです。雨が降ったら傘をさせばいいだけの話ですし、やんだらたためばいいわけです。嵐になるなら外に出なければいいし、快晴ならお出かけすればいいわけです。うん、天気予報なんて無意味です!私は今日限りやめまーす!」
そう言って天気予報士はカメラに向かって走り出し、画面いっぱいに顔のアップをさらした後、青い画面に変わって放送は中断された。
私はただただ呆然とテレビを見つめているばかりだ。
何がどうなっているのかさっぱり分からない。
しばらくその姿勢のままじっとしていると、なんだか自分が無になってしまいそうな脱力感に襲われ、ぶるぶると顔を振った。見回せば相変わらずリモコンに囲まれた異様な世界。
イッタン・ココヲ・デヨウ。
おもむろに立ち上がり、リモコンを踏みつけながらドアへ向かう。
足の踏み場がないとはこのことだと言わんばかりに埋め尽くされているため、靴もリモコンの下敷きになっている。引っかきまわしてやっとのことスリッパを見つけ、それを足につっかける。
ドアの内カギを外し、ノブを押すが動かない。
さらに力を込めてドアを押すと、外でガリガリと何かをこするような音がして、少し動いた。
わずかに空いたドアの隙間から外が見え、その光景にまたしてもぎょっと目を見開いた。
廊下にも無数のリモコンがひしめいていたのである。
(つづく)
「えー、全国の天気をお伝えします。今日の天気は晴れる所もあれば曇る所もあれば雨が降る所もあるでしょう。雷が落ちたり洪水が発生したりするかもしれません。それは我々には予測できません。要するに今日の天気は分かりません。天気なんてどうでもいいのです。雨が降ったら傘をさせばいいだけの話ですし、やんだらたためばいいわけです。嵐になるなら外に出なければいいし、快晴ならお出かけすればいいわけです。うん、天気予報なんて無意味です!私は今日限りやめまーす!」
そう言って天気予報士はカメラに向かって走り出し、画面いっぱいに顔のアップをさらした後、青い画面に変わって放送は中断された。
私はただただ呆然とテレビを見つめているばかりだ。
何がどうなっているのかさっぱり分からない。
しばらくその姿勢のままじっとしていると、なんだか自分が無になってしまいそうな脱力感に襲われ、ぶるぶると顔を振った。見回せば相変わらずリモコンに囲まれた異様な世界。
イッタン・ココヲ・デヨウ。
おもむろに立ち上がり、リモコンを踏みつけながらドアへ向かう。
足の踏み場がないとはこのことだと言わんばかりに埋め尽くされているため、靴もリモコンの下敷きになっている。引っかきまわしてやっとのことスリッパを見つけ、それを足につっかける。
ドアの内カギを外し、ノブを押すが動かない。
さらに力を込めてドアを押すと、外でガリガリと何かをこするような音がして、少し動いた。
わずかに空いたドアの隙間から外が見え、その光景にまたしてもぎょっと目を見開いた。
廊下にも無数のリモコンがひしめいていたのである。
(つづく)
「いてててて・・・・」
目を開ければ視界いっぱいにリモコンの山。その合間から唸るような音が響く。
見れば携帯電話が震えながらリモコンとひしめき合っていた。
私は携帯を手に取り、着信画面を見る。友人のタカシからだ。
「もしもし」
「おーう、元気かー」やけに遠くに感じる声が聞こえる。
「なんだよ」
「なんだよってなんだよ。不機嫌だな」
「こっちはえらいことになってんだよ」
「どうした?」
「いや、もう、起きたらリモコンだらけでさ・・・・」
「おーう、元気かー」今度はやけに近くで声が響く。思わず携帯を耳から離す程の大音量だ。
「うるっせぇな、急にでかい声出すなよ」
「おーう、元気か―」
「なんだよ」
「なんだよってなんだよ。不機嫌だな」
「こっちはえらいこと・・・・?」
なんだかおかしい。自分の声なのに自分の声でないような妙な気分。
例えば、何かに操作されているような気分だ。
「なあ、タカシ、お前・・・」
そこで急に電話が切れた。耳にツーツーという音だけが残る。
「なんなんだよ・・・」
携帯を閉じ、茫然と室内を見渡す。何度見てもリモコンだらけの景色は変わらない。白や黒や灰色といったモノトーンの色に囲まれながら、気だるい気分にさせられる。部屋中を飛び交う電波が自分に見えない牙をむいているようだ。
と、突然テレビの電源が入った。薄暗い部屋がさっと白い光に包まれる。
(つづく)
目を開ければ視界いっぱいにリモコンの山。その合間から唸るような音が響く。
見れば携帯電話が震えながらリモコンとひしめき合っていた。
私は携帯を手に取り、着信画面を見る。友人のタカシからだ。
「もしもし」
「おーう、元気かー」やけに遠くに感じる声が聞こえる。
「なんだよ」
「なんだよってなんだよ。不機嫌だな」
「こっちはえらいことになってんだよ」
「どうした?」
「いや、もう、起きたらリモコンだらけでさ・・・・」
「おーう、元気かー」今度はやけに近くで声が響く。思わず携帯を耳から離す程の大音量だ。
「うるっせぇな、急にでかい声出すなよ」
「おーう、元気か―」
「なんだよ」
「なんだよってなんだよ。不機嫌だな」
「こっちはえらいこと・・・・?」
なんだかおかしい。自分の声なのに自分の声でないような妙な気分。
例えば、何かに操作されているような気分だ。
「なあ、タカシ、お前・・・」
そこで急に電話が切れた。耳にツーツーという音だけが残る。
「なんなんだよ・・・」
携帯を閉じ、茫然と室内を見渡す。何度見てもリモコンだらけの景色は変わらない。白や黒や灰色といったモノトーンの色に囲まれながら、気だるい気分にさせられる。部屋中を飛び交う電波が自分に見えない牙をむいているようだ。
と、突然テレビの電源が入った。薄暗い部屋がさっと白い光に包まれる。
(つづく)
目が覚めた。
いつもの部屋、見えるのはくすんだ天井。
体が痛い。昨日は飲み過ぎて、ふらつきながら帰って来たので、いろいろなところに体をぶつけたのを覚えている。
「うーん・・・・・・ん?」
体を起こそうと手を伸ばした先に何かが当たる。
手元に目をやり、私は目を見開いた。
テレビのリモコンがあった。しかし、ひとつふたつなどという数ではない。部屋中を覆いつくすように無数のリモコンが転がっていたのだ。
「な、なんだこれ・・・・」
立ち上がって部屋を見渡してみると、自分が寝ていたスペースだけぽっかりと穴があいて、後は白や黒や灰色のリモコンがこれでもかと散らばっている。
どうしたものか分からず、頭をぼりぼりと掻く。ただただ呆然と立ち尽くす。
と、突然床が音を出して震えだした。
「うわっ」驚いて前に踏み出し、リモコンで滑った。そのままリモコンの海の中へと倒れこんでゆく。
(つづく)
いつもの部屋、見えるのはくすんだ天井。
体が痛い。昨日は飲み過ぎて、ふらつきながら帰って来たので、いろいろなところに体をぶつけたのを覚えている。
「うーん・・・・・・ん?」
体を起こそうと手を伸ばした先に何かが当たる。
手元に目をやり、私は目を見開いた。
テレビのリモコンがあった。しかし、ひとつふたつなどという数ではない。部屋中を覆いつくすように無数のリモコンが転がっていたのだ。
「な、なんだこれ・・・・」
立ち上がって部屋を見渡してみると、自分が寝ていたスペースだけぽっかりと穴があいて、後は白や黒や灰色のリモコンがこれでもかと散らばっている。
どうしたものか分からず、頭をぼりぼりと掻く。ただただ呆然と立ち尽くす。
と、突然床が音を出して震えだした。
「うわっ」驚いて前に踏み出し、リモコンで滑った。そのままリモコンの海の中へと倒れこんでゆく。
(つづく)